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2020年4月 5日 (日)

第99回 「創作の現場から一素材との対話」

10月25日(金)

山本美次(やまもと よしつぐ 美術家)

201910sala

 

素材を生かすアート作品

 

第99回のレクチャーは、「サラ」メンバーの山本美次(美術家)にお願いした。タイトルは「創造の現場から―素材との対話」だった。山本は、これまで長く教員として美術教育に携わっていた。教育現場を離れてから、現在はみずからの作品制作に取り組み、個展を毎年のように開催している。

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今回のレクチャーは、これまでどんな素材と出会いながら、いかにそれを作品に昇華してきたかを2006年から順に丁寧に辿ってくれた。

素材は、実に多様だ。たとえば有形なものとしては、生物、文学(詩・言葉)、映像などある。無形のものでは、光、音、風、さらには空間もその範疇に入るようだ。

テーマとなる素材を選んだら、続いて造形の素材を選ぶことになる。造形の素材もいろいろある。芯地や和紙、墨、金箔、アクリル、不織布、蝋、染料などを用いて作品づくりを行っている。

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こうした2つの素材との出会いを大切にする表現の仕方は、とてもユニークだ。ただまちがうと、素材に引きずられてしまう危険もでてくる。山本は、それをうまくコントロールしているようだ。

ではどうして多様な素材が必要なのであろうか。それほどまでに素材というは創造力を喚起するのであろうか。その訳を山本は詩人の平出隆の言葉を引用する形で説明する。<卓越した美術家>は、みずから選びとった物質や観念の内部から、だれも使わないあたらしい<言語>を聴きだしてくるからだと。つまり美術家が造りだすものも、これまでにはない別な<言語>となるというのだ。

実際に、山本はいろいろな作家や本から触発されている。四方田犬彦、長田弘の詩集、色彩の本、仏教の経本(般若心経などや梵字)、ヒエログリフなどだ。

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また扱う素材としてはかなり重い出来事たる東日本大震災などとも向かいあった。この東日本大震災をテーマにした作品では、彼はひたすら点を打ち重ねた。つまり点を打つことで、被災した方々の心と向かいあった。タイトルを「Bing」(生きること、生存、生命の意をこめた)とした。

さらに長田弘の言葉を素材にした「光の予感」という作品でも、点を打った。ただ今度は、点が渦巻き状になった。山本はケルトを意識し、そこに生命の循環や再生を指向したという。

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 このようにたしかに山本の作品は、素材から得るものが多いが、それに限定されていないのだ。必ず自分の思念や生命観と絡ませている。常に何か心にひっかかるものとの出会いを大切にしている。

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その仕方がとても柔軟に行われている。それが山本の作品の価値でもあるし、それはそのまま山本のしなやかな生き方を示してもいるようだ。(文責・柴橋伴夫)

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