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2018年10月19日 (金)

第87回「上階(じょうかい)のをかし一山本東次郎家の人と芸一」

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講 師=松井由孝(前・帯広百年記念館館長)

1951年帯広生まれ。前・帯広百年記念館館長。現在、同館友の会会長。帯広狂言づくしの会会員。20代から展覧会の企画展示に関わる。 19891月の帯広市民文化ホール柿落し公演、8月の道東初の「お 「びひろ薪能」を事務局として参加。それが縁で、人間国宝の狂言師山本東次郎一門の「狂言づくしの会」を、1991年から 25年間帯広で開催し、芸術新興で、表現者と鑑賞者は両輪であり、すぐれた鑑賞眼を育てるには「いいものを観る」をモットーに活動。浄土真宗 本願寺派の僧侶でもある。

文化を仕掛ける人

 第87回レクチャーは、帯広から松井由孝を迎えた。タイトルは「上階のをかし―山本東次郎家の人と芸―」。やや難しいタイトルとなったが、<上階>とは、幽玄性のある<高次>の、<をかし>とは、品位のある<をかしみ>(笑い)とでもいうべきか。世阿弥の言葉という。山本東次郎とは、大蔵流の狂言師であり、日本の狂言世界において名だたる芸をみせている方だ。

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松井は大きく3つのことに触れてくれた。最初は自己紹介と歩み。40年間にわたり。帯広の地で文化の種を蒔きつづけているが、その難しさと、実現できた時の喜びを語ってくれた。その中で<帯広方式>とでも命名したいシステムがあるという。文化づくりのためには、<セクト>(組織)の枠をこえて汗を出し合うというもの。オーケストラ、オペラ、バレー、美術展においても、協働関係を築いているという。いいものを創るために、その一点において一致する。とても素晴らしいことだ。

そうした活動を通じて、もう1つ大切なことを学んだという。それは何か。松井は、「鑑賞者を育てること」がとても大切だという。それができていないと、文化の華は開かないし、根づいていかないという。

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2つ目に、十勝の文化づくりに関わった10年間の歩みを紹介してくれた。その契機をつくったのが、子供の誕生祝いに、帯広の弘文堂で買った一枚の絵。以来画家の仕事に関心を抱いた。さらに仲間と企画集団「ニュー・ホラーズ」を立ち上げた。<ホラー>とは、<ほらを吹く>こと。アンチ帯広、つまり帯広の外縁にある町に生活するメンバーが軸となった会。<ほら吹き>で終わらせずに、アメリカのロスアンゼルスとの交流展を実現しているから、凄いことだ。

松井は、帯広市の教育委員会に長く勤務し、最後は帯広100年記念館館長で勇退した。その間、文化の足場づくりに専心した。地方で文化を興すことは大変なエネルギーを要するものだ。それを彼は、日々行ってきた。頭が下がるばかりだ。そうした活動の積み上げが、文化ホールや道立美術館のオープンへ、さらに道東で初の薪能の実現につながった。

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3つ目に、四世山本東次郎の芸の魅力を語ってくれた。知らないことを教えられた。狂言には、大蔵流と和泉流の2つがある。これ位は、知識として知っていた。ただ違いとなると皆目見当がつかない。

今回紹介してくれた大蔵流は、世阿弥から、大蔵虎明、さらに式楽へと連なる正統派に属するという。格調、品位、気迫に満ちた芸風を堅く死守した。山本家は、<貴族>風に堕すことなく、特に明治維新という大変動下にあっても、<武家>風を固守した。そこには強い意志が働いていた。東次郎の芸は、「乱れても盛んなるよりは」という言辞に収斂するという。まさに表面的な隆盛に浮かれることなく、流行や甘言を排して、日々の修練を通じて初原の芸に立ち戻れということ。

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このやや時代に反するような固執。芸事における深いものを感じた。伝統芸と一言でいうが、その芸を継承し次の時代に正しく伝えていくためには、指導者の鉄の意志が必要となる。

帯広で、山本家の狂言を何度も開催している。それだけ「剛直」と評されることの多い東次郎の人格と芸に惚れているからであろう。

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最後に、その四世東次郎の作品「月見盲人」(「月見座頭」ともいう)の映像をみせてくれた。こんな物語だ。月の明るい晩、下京に住む盲人が虫の音を聴きに野辺に出た。そこに月見に来た男と出会い、酒を酌み交わすが男は別れ際に盲人と喧嘩に。別人を装ってわざと盲人につきあたり、杖を奪い取って引きまわした。盲人はさびしく帰途に着く。このように笑いはない。むしろ哀しみが潜んでいる。こうした月見や虫の音が籠った幽玄の美。それが東次郎の真髄のようだ。ただ時間が不足し、全体をみることができなかったのが残念だった。(文責・柴橋伴夫)

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