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2018年10月19日 (金)

第86回「書票の魅力」

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講 師=原 滋(書票収集家)

1928年撫順(中国)に生まれる。1945年終戦の玉音放送を新京(長春)できく。1946915日に引揚船で博多に上陸。翌年4月に「新潟高等学校(旧制・官立)入学。1950年に大阪大学工学部(旧制)入学。1953年に北海道電力に入社し、1984年に退社する。一級建築士、民事調停員。

書票の美に関心を抱き収集と研究を開始。1992年に開催された世界書票会議札幌大会実行委員。現在、日本「書票協会北海道支部長として、展覧会を開催するなど、書票普及活動を行っている。


蔵書票に魅了された男

 

第86回レクチャーを、サラ・メンバーでもある原滋にお願いした。タイトルは「書票の魅力」だった。1928年生まれというが、その年齢を感じさせない<気合い>が入ったレクチャーだった。なによりも蔵書票に対する熱い想いが半端ではなかった。

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世の中には、不思議なものにとりつかれた人がたくさんいる。人は、それを「好事家」というかもしれない。この「好事家」という言葉。ただの「余技」を持つ人と想ったら間違いだ。そこに「余技」をこえるものがたくさんあるからだ。ではこえるものとは何か。一言でいえば、人を虜にする魔性とはいわないが、人の心を躍動して止まないものがそこに潜んでいるのだ。

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 では原は蔵書票に、どんな「心の躍動」を感じたのであろうか。それは何かをレクチャーを聴きながら考えてみた。その1つの答えが、こういうものだった。蔵書票は、決して「書物」の飾りではなく、「書物」と同じ位とはいえないが、それに近い価値をもつもの。蔵書票を造った美術家(造形家)の「個性」が迸りでるから価値があるのだ。たしかに蔵書票は、とても小さな「宇宙」にみえるが、まちがいなくその美術家(造形家)のいのちと愛情が宿ったもの。

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蔵書票家は、それを入手し、他の人と交換し、その美を相互に分かち合うことをとても大切にしている。その1人が原滋だった。

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いうまでもなく蔵書票は蔵書家からの依頼により、美術家(多くの場合は版画家)が創作するもの。だから美術家からの、その蔵書家へのメッセージ、つまり返礼(応答)でもある。どんな方法で返礼をしてくれるか、それを蔵書家はじっと待っているわけだ。この様に考えてみると、蔵書票制作は極めてパーソナルな親密な関係があってこそ成立するものだ。

 レクチャーの内容を踏まえて、私が感じたことを手短かにまとめて記しておきたい。


まず日本の蔵書票の歴史である。明治期に来日したエミール・オルリックなる人物がいる。チェコ生まれのエミールは、『明星』(第7号)に西洋蔵書票「エクスブリス」4点を掲載した。これが日本初という。ちなみに「エクスブリス」とは、ラテン語で<蔵書からの一冊>を意味する。

こうして絵と文をいれた図案化したものが、蔵書家の間で好まれていった。どんな絵と文を狭い空間にいれて構成するか、造り手の腕の見せ所となった。創り手には、版画家が多くなった。とすれば蔵書票は、オリジナルな<小さな版画>ともいえるわけだ。私も実際に幾つかの蔵書票を拝見したことがあるが、まさに限定版の版画にみえた。

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さて蔵書票の研究や収集もさかんだという。大学や図書館でもコレクションが所蔵されている。道立図書館にもかなりの数があるという。道内では川元栄一コレクションが有名という。

 いま版画家が蔵書票を制作するケースが多いとのべたが、道内でのその第一人者が大本 靖という。かなりの数を制作している。また原は、武井武雄や平塚昭夫も重要という。平塚昭夫は、1947年に苫小牧市で生まれた。合羽摺りの技法で版画を制作している。2004年に台日蔵書票交流展で特選をうけている。私が知らない名もあった。和の味をみせる敦澤紀恵子、薬袋みゆきなどの女性の名をあげていた。

原は、国際的な蔵書票に関する組織にも関わっている。2013年に世界書票会議札幌大会を開いている。この大会の世話人を原がおこなったこの時に参加者に配られた記念品が平塚昭夫作の蔵書票だった。

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小さな「宇宙」をみせる蔵書票の世界。どうも原のこの蔵書票への偏愛は、まだまだ続くようだ。(文責・柴橋伴夫)

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