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2018年1月26日 (金)

第80回 2017年11月24日(金)

講 師: 我妻緑巣(書家)

1934年室蘭生まれ。渡辺緑邦に師事。これまで北海道書道展、日展、毎日書道展、創玄展を主舞台として作品を発表。近年は「我妻緑巣」展(94,99,2004,2014年)を開き、「老子」などに挑んでいる。『北海道の「書」20人の世界』道立近代美術館、91年、「北海道の書」展道立近代美術館03年に出品。北海道書道連盟理事長03年、札幌芸術賞05年受賞。2015年には「ふるさと夕張」展(夕張市清水沢地区公民館)を開催し話題を集めた。

書芸術への熱い想い
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第80回レクチャーは、書家我妻緑巣(札幌在住)にお願いした。我妻は、北の地に根をはり、近代詩文書の世界において、金子鷗亭、中野北溟らに続いて、独自なフィールドを切り拓いている。北の書人の第一人者だ。レクチャーをお願いした時、「文房四宝のことを話したい」といわれていた。自分にとり、<何をかくか><どうかくか>も大事だが、墨、筆、硯、紙がいかに<至高な存在>であるか、それが「書のいのち、作品の格」を決めるものであるか、力をいれて語ってくれた。我妻は、そのことを示すために、レクチャーの壁に、「文房四宝」の書字を掲げてくれた。
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またかなり高価な、墨、筆、硯などを、各自が手にとってみるように配慮してくれた。そしてこう言い放った。「いいものを使え」と。この言葉を聞きながら、こう感じた。書業を極めるためには、財を惜しまず、いい道具と出会えと。芸術と道具。道具は手段に過ぎないとみる人もい。しかし特の書芸術においては、生命を賭けた仕事を支える重要なパートナー、いやそれ以上の、創造力と生命力の源なのなのである。「いいものを使え」、短いが長年にわたり「書」を追究してきた書家らしい含蓄ある言葉だった。また我妻は、二〇一〇年に西安の地を訪れているが、その実体験から、中国の碑文、その本物(オリジナル)を自分の足と眼で確かめることの重要性に言及した。

少し、分からないことがあったので、にわか勉強をした。筆の始まりは、一般的には秦の始皇帝(約2300年前)の時代に遡及するという。秦の時代に、蒙恬(もうてん)なる将軍が、枯木を管(じく)とし、鹿毛を柱(しん)に、羊毛を被(おおい)として作った。その筆を始皇帝に献上したのがはじまりという。一方日本における最古の筆は、奈良正倉院に所蔵されている「天平筆」「雀頭筆」という。硯もまた長い歴史を刻んでいる。我妻は、「端渓(たんけい)」の硯(すずり)は最高という。しかし「文房四宝」の質も、政治社会の変動に左右されているという。中国では文革以後、質の悪い藁を使うことで紙の質が随分低下してきているという。
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今回のレクチャーで、私は、我妻の境涯に少し触れることができた。我妻の書は、早くに両親を亡くしてこともあり、いかに「立身」するかということと、深く絡んでいたようだ。室蘭に生まれたが、両親の死去により、縁戚の世話になり夕張へ。その後札幌に出て、生涯の師となる渡辺緑邦に師事した。師からは3回破門されたというが、師から「緑」を頂き「緑巣」とした。こうして我妻にとって書は、生きることと不可分な関係を結んだ。だからであろうか。我妻は、宮澤賢治の詩を好んで題材にしている。代表作「雨ニモマケズ」や「ふきの花でいっぱいだ」において、筆にいまここに自分が生きていることの感慨(喜び)をのせている。まさに書世界の中で、自分探しを行い、書が彼を支えたといえる。それだけではない。オリジナルな書法確立を目指して研鑽を積んでいる。そしてなによりも、1つ1つの筆触に現代的感覚を漲らせ、紙背に鮮烈な美を宿らすこと目指している。 
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話の後半では、主として80歳を迎えて「老子」に挑んだ展覧会の作品をラッシュでみせてくれたが、現代語訳を素材にしながら、新しい自分探しをしているのが分かった。特に「一」の力作には、闇を切り裂く生命力が漲っていた。まさに墨、筆、紙、硯の力を借りながら、古い自分を脱ぎ捨てていく、求心的な意志力を熱く感受した。

最後にみせてくれた映像が楽しかった。席をうめた我妻さんの「生徒さん」も、大感激だった。映しだされたのは、若き日の我妻さん。一斉に「若い!」の声があがった。書友(仲間)が我妻宅へ集まり、壁に貼った紙(?)に交互に書を書いていた。女性達は、背中に子供をおんぶして、喜々として筆を動かしていた。こんな風に競いあいながら書に熱をあげる姿。とても微笑ましく、そして素晴らしいと感じた。映像の中の我妻の顔。柔和な表情はいまと同じであった。
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 人生という回路では、我妻は老成の峠をこえた。しかし芸術には、永遠に終わりはない。さらに大きな峠をこえて、新天地を切り拓いてほしいものだ。

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(文責・柴橋)

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