« 第74回「タイの文化システムから学ぶ―タイ王室と聖書翻訳そして日本」 | トップページ | 第76回「本の表紙を描いて」 »

2017年7月 1日 (土)

第75回「M.C.エッシャーとジャポニズム」

75 2017630日(金)

講 師: 喜井豊子(美術家・エッシャー研究家)

エッシャーに憑りつかれた美術家

 第75回レクチャーは、「サラ」メンバーの喜井豊子(美術家)にお願いした。喜井は、若い時には油絵を描き、二十歳頃より革工芸を始めた。いまでも革工芸家として、絵画的色彩を生かして活躍している。今回のレクチャーは、革工芸家としてはなく、M・C・エッシャー研究家としてお願いした。ただ会場の壁には、自作のエッシャーとジャポニスムを主題にした作品を展示してくれた。

Kii1 Kii2

人には、運命的出会いということがある。オランダの版画家に、M・C・エッシャーがいる。不思議な無限性や新しい遠近法を駆使した作品は不思議な錯視空間をみせ、子供から大人まで人気を集めている。エッシャーは、はじめ建築装飾美術学校に入学、建築からグラフィック・アート に変更し、SJMesquita(ド・メスキータ1868-1944)教授より版画を習っている。

喜井は、そのエッシャーの作品に出合い、探求心を燃やして、その図像研究に力を注いでいる。イタリアのフィレンツェ美術アカデミーで、そのエッシャーをジャポニスム(日本趣味)との関係で論じて卒論にした。

これまで、日本では、坂根厳夫がエッシャー研究者として、第一人者の位置を占めていた。ただ錯視空間を研究してもジャポニスムとの繋がりで調べる研究者は少なかった。文献がないなか、1点1点の図像を浮世絵などの日本美術とアナロジーしながら進めた。特に喜井は、エッシャーの父ゲオルギ・アルノルド・エッセル(日本では、ゲアエッセルと呼ばれたという)が明治期に来日し持ち帰った日本美術作品に着眼し、その図像がいかにエッシャー自身の作品に立ち表れてきているかを調査している。

Kii3

実は、エッセルは、明治政府お抱えの役人(技術者)として来日し、幾つかの仕事を残している。その1つに、坂井市三國にある龍翔小学校(現:みくに龍翔館)の設計・指導を行っている。私は、この「みくに龍翔館」をみたことがあるが、八角形の和洋折衷風のユニークな建造物でした。

Kii5

喜井は、それまでの調査結果を雑誌『ジャポニスム研究』に「M・C・エッシャーとジャポニスム」として掲載した。さらに精緻な図像調査を行い、今度は、「M・C・エッシャーとジャポニスム絵巻物展」として、数ヶ所において個展形式で発表した。私は、2016年の、NHK札幌放送局「ギャラリー」(9/30日-10/6))での展示をみた。その長い「絵巻物」は、エッシャーの作品を上におき、それに影響を与えた浮世絵などを下においていた。その比較検討がとても精緻で、分かりやすかったのを記憶している。

Kii4

このレクチャーでは、「ジャポニスムの歴史」を使いながら、「絵巻物」に記載した図像をみせながら、説明してくれた。たとえば北斎や着物の柄などの工芸などが、いかに下地にひそんでいるか、示してくれた。さらにジャポニスムが広汎な影響を及ぼし、ゴッホなどにも影を落としていることなどを実証的にみせてくれた。

また今年に入り、シーボルトコレクションを調査するため、オランダまで出向いている。さらに大倉喜七郎が1930年にローマの「パラッツォ・デッレ・エスポジツィオーニ・ディ・ベッレ・アルティ」で開いた大規模な日本美術展覧会に関心を寄せている。この展覧会がエッシャーに何らの影響を与えたとみている。

Kii6

このように喜井は在野の研究者として、自分の眼と足を使い自費で調査研究を重ねている。自分のテーマを、時間をかけてじっくりと掘り下げていく。いろいろな困難があっても、それを諦めずに継続している。在野にこういう研究者がいる。とても嬉しいことだ。そんなことで、「サラ」のレクチャーにお願いしたわけだ。

Kii7

喜井は、さらにおおきな夢を描いている。この「絵巻物」を出版し、海外にも送り研究成果を世に問いたいという。1人の女性研究家がそれを成し遂げたら、大拍手ものである。夢は実現するためにあるもの。夢が実現することを強く祈りたい。(文責・柴橋)

« 第74回「タイの文化システムから学ぶ―タイ王室と聖書翻訳そして日本」 | トップページ | 第76回「本の表紙を描いて」 »

コメント

コメントを書く

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.f.cocolog-nifty.com/t/trackback/1362813/71986379

この記事へのトラックバック一覧です: 第75回「M.C.エッシャーとジャポニズム」:

« 第74回「タイの文化システムから学ぶ―タイ王室と聖書翻訳そして日本」 | トップページ | 第76回「本の表紙を描いて」 »