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2017年5月 1日 (月)

第73回「伝統俳句と前衛」

73 2017428日(金)

講 師: 嵩文彦(詩人・俳人)

1938年網走生まれ。3歳の時帯広に移住。1956年帯広柏葉高校卒業。1957年北大医学進学課程入学と同時に句作を開始、道新読者俳句欄細谷源二に投句開始、しばしば一席に採られる。1960年医学部進学と同時に同人誌「あすとら」を発刊、句作をやめ詩作に転じる。1996年詩作をやめ句作を再開。2014年句作と並行して詩作を再開。20162月同人誌「奥の細道別冊」発刊に参加。現在に至る。

俳句の中に精神の自由を 

 

第73回レクチャーは、嵩文彦(だけふみひこ 俳句 詩人)にお願いした。題して「伝統俳句と前衛」。嵩は、レジュメを用意し、それに沿いながら順に話を進めてくれた。タイトルにあるように「前衛」と「伝統俳句」を対極に置きながら、具体的な作品を取り上げつつ自説を展開しながら、自在に論じてくれた。

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まず前衛思考のベースとなった、シュルレアリスムの受容に着眼してくれた。シュルレアリスムの美学は、既成の価値観を否定するものであったが、日本では、西脇順三郎や三好達治の作品にみられるように、「モダン」とイコールとなって定着したという。

一方の「伝統俳句」は、正岡子規の弟子たる高浜虚子が提唱した「花鳥諷詠」「客観写生」「季題」、この3つを絶対的「規範」として推し進められたという。

嵩は、この「伝統俳句」を批判的に捉えている。なぜだろうか。この「規範」では、「自然界・人間社会・世界」を厳しく認識することはできないという。というのも足元では人間が自然を破壊し、収奪し続けているからだという。それゆえにこの「規範」からは、表現者に大切な「批判的認識」と「積極的認識」が生起してこない、とかなり手厳しい。

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続いて俳句界の推移をかいつまんで紹介してくれた。嵩は、高浜虚子の結社「ホトトギス」からの離脱が進み、大きなウネリをもたらしたという。その代表的俳人に、水原秋櫻子、山口誓子らはいた。嵩は、山口誓子の「ピストルがプールの硬き面にひびき」「夏草に汽車の車輪来て止まる」を紹介した。いま詠んでも、新感覚の優れた句である。

その後、新興俳句運動が大きな渦を造り、いわゆる「自由律俳句」「無季俳句」が盛んになった。嵩が紹介してくれた高柳重信の句に驚いた。「きみ嫁けり遠き1つの訃に似たり」や「船焼き捨てし 船長は     泳ぐかな」だった。特に後者は詩のように行わけされ、さらに一行は「空け」である。斬新さをこえて意志的な、そして時間をもりこんだ句である。

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 さらに無季俳句が成熟を迎えた。その代表的作家として、細谷源二と西東三鬼らをあげていた。細谷源二は、工場労働者の生活俳句を提唱した方。「新興俳句弾圧事件」で検挙された。戦後になり北海道に移住後、「氷原帯」を創刊(主宰)した。その句「鉄工葬をはり真赤な鉄打てり」は、工場労働者の生活から生まれたもの。細谷には「戦争が廊下の奥に立ってゐた」があり、反戦の色合が濃い。実に深く心に訴えてくる力をもっている。戦時下で、細谷達が苦しんだように、国家体制の中に俳句運動全体が飲みこまれて行った。有季定型や客観写生にはむかうことは、国家体制への「反逆」とみなされたわけだ。多くの俳人が検挙された。そのたた新興俳句は大打撃をうけた。それが今も続いているという。 

最後に嵩は、いまの現況を見つめながら、「結社俳句」が権勢をほこり、表現行為をめぐっての厳しい論争もないことを憂いている。ただ小津夜景、大沼正昭、中村安伸ら、若い人たちが新感覚の作品をつくっているし、これからの動きに期待している。

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このように嵩は、表現者の1人として、前衛俳句の位置にたちながら、社会的視座をベースにおきながら、これまでの俳句の流れを辿ってくれた。嵩は、揺るぎのない意志を抱きながら、一貫して社会状況を批判的に見つめながら、句作している。だからこそ、このレクチャーは興味深かった。そしてこうもかんじた。嵩がもっとも大切にしているのは、どんな政治状況であっても「表現の自由」を奪われてはいけないことだと…。なぜなら「表現」とは、優れた批評的行為であり、それを喪失してしまえば、もっとも大事な「精神の自由」を喪失するからである。最後にひとこと。自作を紹介してほしかった。機会があったら、自作を軸にして表現論を展開してほしいと感じた。(文責・柴橋)

 

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