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2015年12月11日 (金)

第60回 伊福部昭の肖像

第60回=2015年11月27日(金)

●講 師=柴橋 伴夫(詩人・美術評論家)

1947年岩内生まれ。砂澤ビッキや難波田龍起を評伝スタイルで論じ、『聖なるルネサンス 安田侃』、『夢みる少年イサム・ノグチ』、『太陽を掴んだ男岡本太郎』、『海のアリア 中野北溟』を刊行。現在、伊福部昭の評伝を執筆中。

荒井記念美術館理事、北海道文学館評議員、『美術ペン』編集長。文化塾「サッポロ・アートラボ(サラ)」代表。

北の聲アート賞事務局長。

●テーマ=伊福部昭の肖像
伊福部昭の風景を歩いて
第60回のレクチャーは、柴橋伴夫が担当した。本来であれば、この「まとめ」は別の人に書いてもらうのが本来ではあるが、今回は本人が書かせてもらうことにした。そのことをまず記しておきたい。
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私は、1年余をかけて評伝『生の岸辺-伊福部昭の風景(パサージュ)』を書いた。このレクチャーには間に合わなかったが、12月初旬の刊行となった。このレクチャーでは取材話を含めて、伊福部昭とはどんな音楽家であったのか、その生の岸辺(風景)と人物肖像を詳しくのべることにした。
まずここで一番言いたかったことは何か、数点でまとめておきたい。
第1に伊福部家の伝統、その「家の力」である。家は、代々因幡国(現・鳥取県)の古代氏族として名をなしていた。また先祖は、因幡国一の宮たる宇倍神社(御祭神が武内宿禰命)の宮司でもあった。伊福部昭は、父より家学たる『老子』哲学を学び、さらに中国思想や漢籍に精通した「知の人」であった。
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第2に札幌で青春期に世界を目指した音楽家であること。若い者は、夢みることが特権である。三浦淳史、早坂文雄らは、20代で世界を夢見ていた。[新音楽連盟]の結成(1935年)し、「第1回国際現代音楽祭」を丸井記念館で開催。まさに数人の仲間で世界と繋いだこと。その中の早坂文雄 とは、盟友として親交を深めた。早坂は北海中学(現・北海高校)出身。『国際現代音楽祭』では、ピアニストとしてエリック・サティ、マヌエル・デ・ファリャなどの作品を演奏した。ピアノ曲、管弦楽曲、室内楽曲、映画音楽の分野で作品を残している。このレクチャーには、多くの学生も来ていた。それを意識し、「もっと若い時にはでっかい夢を描くべきだ」「いろいろなことにチャレンジすべし」と、言を強めた。
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第3に伊福部昭の思想には、21世紀に復活すべき「共生の思想」があること。釧路、網走、音更、厚岸などで生活し、アイヌ・北方のギリヤーク族などの音、神楽、盆踊りなど民衆の歌舞にも関心を抱いていた。それらを素材にして「ギリヤーク族の古き吟誦歌(1946) 」などを作曲している。
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さらにその眼差しは、世界の民族楽器、日本の琴、明清楽器に及んでいる。現在、世界では民族同士が対立し、悲劇的様相を呈しているが、この音楽家は、常に民族の固有的価値を大切にすべきであると、訴えてきた。その意味でも、民族の共生を願っていた人だった。
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最後に平和を希求する「音」 の創造者である。よく知られた映画「ゴジラ」や「原爆の子」に託したものは、一言でいえば、平和への祈りである。太平洋戦争下、苦難の「夜の時代」を過ごし、自らが戦時研究員として木製飛行機のために「強化木」実験中に、放射線を浴びて苦しんでいた。これを忘れてはならない。私は、伊福部の戦時下の苦い自己体験が、それらの音には色濃く反映しているとみている。
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ただこの辺で90分をこえてしまった。そのため結論部分を省略してしまった。ここではその最後の部分を箇条にして記しておきたい。
❶伊福部昭の音楽には、現代的価値があり、さらに予言性を帯びている。
❷伊福部昭は「芸術はその民族の特殊性を通過して共通の人間性に到達しなくてはならない」という。つまり民族性は芸術の根源力となると宣言している。
➌音楽は、平易なものであるという。音楽とは何かを、本質を踏まえてこんなにも平易にいいきった。
❹伊福部昭の思想には、北方的な美学が宿っている。無垢なる大地や森が生み出す生命力、反復するリズム、土俗性、それらは北の音が原点となっている。
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最後に一言。この評伝を書き終えて、北海道人として、この北方的美学に根ざした表現をつくるべきであり、自らの課題にしなければいけないと、強く感じている。
(文責・柴橋伴夫)
 

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