第42回「いけばなと造形」
第42回 SAPPORO ART LABO
■開催日:2014年2月28日(金)
■講師:
池上理圃(華道家)
1940年札幌生まれ。1958年専正池坊入門。いけばな芸術の可能性を探求し、流派を超えた仲間5人で、1979年より絵画(八木保次)、短歌(菱川善夫選)、建築(倉本龍彦)、音楽(木村雅信)を素材にして、現代いけばな造形展「5つの個展」開催。また1986年より江別で個展を開催している。2001年から、数人で新たなる造形展「風」を立ち上げ、2002年に「風 the Ikebana」(道立近代美術館)を開催し、いけばな界に新風を巻き起こしている。現在、北海道いけばな連盟常任顧問。専正アカシア会主宰。
■会場 ト・オン・カフェ 札幌市中央区南9条西3丁目2-1マジソンハイツ1F
■受講者??名
いけばな芸術の革新性
「サラ」では、いけばな芸術についてのはじめてのレクチャーとなった。札幌で専正池坊アカシア会を主宰する華道家池上理圃に「いけばなと私」と題して語ってもらった。
私は池上とはあれこれ30年以上の付き合いをさせて頂いているが、彼の家の生業については知らなかった。札幌の西野で田畑や果樹園を営んでいた。だから小さい時から、花は身近な存在だった。札幌琴似高等学校(現・新川高等学校)定時制に入学後、そこで華道部入部し生け花を始めた。札幌市交通局に入局するが早めに退職し、その後は専正池坊華道教授として教えながら、いけばな造形作家となった。
さて池上は、いけばな芸術に大きな可能性を感じているという。それについて、数点でまとめてくれた。「自然の草木を素材にした造形芸術」であり、「人の心を癒し、心を豊かさや潤いを与えるアート」。さらに「四季折々の風情を愛する芸術」であると。
池上は、伝統文化の世界に留まることなく、これまで果敢に新しい造形の試みを行ってきた。当時中森花器店の店主だった中森敏夫氏(詩人、現・テンポラリースペース主宰)と出会い、中森が企画した流派を超えた新規なアート運動に参加した。それが1978年からスタートした「5つの個展」であった。専正池坊、池坊、草月流、小原流、和風会など5流派に属する作家が、それぞれの「枠」をこえて、相互研鑽しながら新たな造形表現を探求した。なにより革新的だったのは、絵画、現代短歌、現代音楽、建築などの他のジャンルとクロスオーバーをしながら、「造形芸術とは何か」「現代と表現」を論じながら、5人による個展形式を重んじながら展覧会を行ったこと。
池上は「5つの個展」後も、2001年から仲間と「風の会」を立ち上げ、さらに造形思考を燃やし続けた。様々な空間(場)でいかに作品構成するか、またそれが人々の共感をえることができるか考え、北海道立近代美術館や大通美術館(全館使用)で作品展示した。これまでに制作した作品をスライドで紹介してくれた。札幌東急デパートなどでの「5つの個展」、札幌市内のデパートを会場にした「いけばな百人展」や「いけばな美術展」、さらに野幌公民館での社中展などの作品など、どれも革新的なものばかりだった。
私が興味をもったのが、2002年に「風の会」で発表した「舞う」(道立近代美術館)の新聞チラシを素材にした作品や、「華と木工芸会員」展(札幌生涯学習センター・ちえりあ)の野外に展示した多量な割り箸を集積させた「隆盛」など。一切生花を使わない素材の使い方がユニークであり、見事な現代美術作品でもあった。また友人が札幌文化功労賞を受賞し、その祝う会で会場にいけた「祝賀の舞」も華やかでとても印象に残った。
池上は、最後にこういった。「造形とは、本来もっている素材自体の特性を活かしつつ、別な形(フォルム)や空間体として構築すること。そこに表現者の思考や個性が表出する」と。池上には、さらに新しい<空間体>の構築をめざして、作品づくりを続けてほしいと願いたい。最後に一言、若い人達にもぜひアートとしての「いけなば」の可能性に関心をもってほしいとも感じた。
(文責・柴橋伴夫)