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2013年10月

2013年10月24日 (木)

テキスタイルの新たな表現を求めて


SAPPORO ART LABO 2013
 サッポロアート・ラボ 第38

「テキスタイルの新たな表現を求めて」      -開催日2013年9月27日(金)-

 

■講師:篠木正幸(布作家)

  

1979年さいたま生まれ。道都大学デザイン学科卒業。美工展では、佳作賞(2006年)、奨励賞(2008年)受賞。道展(2012年)入選。「N.C. GALLERY 展示ながるるもの」や個展「カタチあるカタチのないもの」を開催。

 現在、美工展会員。テキスタイル協会会員。

会場 ト・オン・カフェ  札幌市中央区南9条西3丁目2-1マジソンハイツ1F 

■受講者23

 

新しいテキスタイルの可能性を求めて

 

タイトルは、「テキスタイルで新たなる表現を求めて」だった。篠木正幸は、レクチャーのはじめに「自分の作品を見つめなおし、表現の原点を再考する」いい機会となった、と語ってくれた。

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これまでの歩みを短く振り返ってくれた。花火大会などで有名なさいたま市で生まれた。家は、自動車の整備を生業にしていた。これまで北海道とは、縁がなかったという。来道し、道都大学で学ぶことになる。私も初めて聞いた話だが、この大学には、高校時代の実績(戦績)が認められスポーツ推薦で入学したという。ボクシングに汗を流すスポーツ選手だったとは、知らなかった。  

 

道都大学で美術と出会い、中島ゼミに席を置いた。他の学生が、<型とり><プリントアート>へ向かう中、自らの方向を探した。布に魅力を感じ、染めも覚えた。この時期の作品をスライドでみせてくれた。蝋染やエッチング技法などを織り込みながら、「素材と技法の関係」を掴もうとしていたのが、読みとれた。卒業後は、札幌芸術の森のクラフト工房で4年間働いた。他の工芸作家とも知り合いになり、いろいろ収穫もあった。

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次に「テキスタイルと工芸というジャンル」について概説をしてくれた。本来、テキスタイルとは、ファブリック(布地・織物)を指す言葉だった。ただ現在は繊維素材に限定することなく、織(綿、毛、金属)、フェルト、グラスファイバーなども包含している。また工芸という概念も揺れてきている。実際に工芸と彫刻などとの「区分け」(境界)も曖昧化してきている。

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私は、篠木の作品を前にして、それが「テキスタイルか工芸か」と区分論議はあまり本質的ではないと考えている。要は、作家がどういう素材を使い作品化し、そこにどんなオリジナルな造形が生まれているかである。篠木は、レククチャーの中で、道内外で活躍するテキスタイル作家(戸坂恵美子、伊藤光恵、菱山裕子)などの作品を紹介してくれたが、それぞれが造形する空間やテクスチャーは、テキスタイルの概念を押し広げながら、自己の創造的を空間づくりに向かって精力的に仕事していると感じた。

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では篠木は、テキスタイルにどんなことを託しているのであろうか。どんな現代的な空間を構築しようとしているのであろうか。今回は、ト・オン・カフェで、作品展を開催してくれた。レクチャーの後半部で、作品の前で制作の仕方や、どんなことを考えていたか解説を加えてくれた。まずネルの繊維素材の個性である、白色と小さな粒子性を大切にした。それを重ね、フォルムを作る。その時大切なのは、それを収める箱であるという。また光が大切な要素という。ぜひ光の反射がどうなるか、影も含めて全方位で感じてほしいという。参加者に感想をいただいた。「等高線にみえる」「日本の庭みたい」とか、様々だった。

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私は、その抽象化された空間から、和のデザイン「枯山水の庭」を連想した。それにしても余白の美と、その瀟洒な空間美が静かでいい。今後のことをきいた。「映像の繊維的表現」に着眼し、「映像とテキスタイルとの融合」を考えているという。ポーランドの映像作家ズビグニュー・リプチンスキーの仕事に関心があるという。レクチャーの中で、「生物ではない線」「魂のない冷たいもの」を大切にしたいと語っていた。この言葉をどうつかみ直しで、現代化し、作品に結実化し、テキスタイルの可能性をどう切り拓いていくか、その営為をたのしみにしたい。

(文責・柴橋遁伴夫)

 

2013年10月 2日 (水)

「み蔵木彫三昧−愛すべき動物たち」


SAPPORO ART LABO 2013
 サッポロアート・ラボ 第37

「み蔵木彫三昧−愛すべき動物たち」      -開催日2013830日(金)-

■講師

□小笠原 み蔵(木彫家)

 1939年松前郡福島町生まれ。木肌を活かした、さまざまな動物たちを創作。ユーモアたっぷりの作品は、全国の多くの人々に愛されている。これまで「アトリエ・ヌーボー・コンペ」や「朝日現代クラフト展」「世界デザイン展」などに入選、入賞している。写真作品集では、『ウッディ・愉快なトン・とん・豚』(1984年)、『木彫ゴリラ図鑑』(1996年)などがある。『北の木仕事』(2001年)にも作品が紹介されている。

■会場 ト・オン・カフェ  札幌市中央区南9条西3丁目2-1マジソンハイツ1F

■受講者 20

 


 

温かいユーモアとピリリとした批評性あり

 

はじめに小笠原み蔵は、木彫の世界に入るまでの歩みを短く語ってくれた。これまでいくつかの仕事をしてきた。北海道警察音楽隊でオーボエを吹いていたこともあった。そのためか、ジャズ奏者を題材にしたものも多い。また短期間だったが、ススキノでマスターをしていたこともあるという。その後、ヨーロッパの各都市を訪れたことがあったが、デンマークでみた木造建築などに心がひきつけられた。それが機縁となり、木彫による作品づくりをスタートさせた。積極的に全国規模のコンペ、アトリエ・ヌーボォ(池袋西武)、朝日現代クラフト展などに出品し、入選を重ねた。さらに世界デザイン博にも出品した。個展は、道内はもとより、東京、横浜、倉敷、名古屋などで開いており、全国にファンがいる。

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み蔵の作品の魅力は、まず素材の使い方にある。「はじめは素材の木に魅せられ、時には語り合った」という。今回映像でみせてくれた作品でも、それぞれの木の質や個性を生かして、作品づくりをしているのがわかった。魚が泳ぐ、その流線型のフォルムをとらえたものがあったが、そこには優美性が宿っていた。なんといっても、もう1つの魅力は、確かな技法を活かしながら、作品に込めたユーモア精神である。かつて日本人は、落語、川柳、戯作物、浮世絵などに、ユーモアとシニカルな社会的風刺などを込めてきた。その意味で、本来日本人は、生真面目さだけでなく、ユーモアに遊んできた。み蔵もまた、そんなユーモアに遊ぶ表現者である。み蔵は、これまで豚やゴリラなどをモティーフに選んできた。なぜだろうか。こんな言い方をしている。「ブタを愛らしく思い」「ゴリラに愛着を感じ」「サルを作って自己反省」をしていると。人間と、ブタ、ゴリラ、サル達をいつも同一の目線で見つめている。そして人間の傲慢や、独りよがり、滑稽さをサラリと炙り出している。

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み蔵は、これまでいくつかの写真集を編んでいる。『ウッディ・愉快なトン・とん・豚』(1984年)や『木彫ゴリラ図鑑』(1996年)などである。今回スライドでみて、改めて感心したのが、篠山紀信が宮沢りえを被写体にした『サンタフェ』の表紙写真をモティーフにした作品だった。そこでは宮沢りえが、ゴリラに変えられていたが、木の使い方が絶妙だった。

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 今回私は、新札幌ギャラリー、茶廊法邑、大丸藤井セントラル、石の蔵ぎゃらりーはやしなどで開催された個展やグループ展に出品した作品を映像に収めることに協力させてもらった。茶廊法邑では、植田獏さんの絵とコラボした。今回は会場に植田さんも来てくれて、コラボの楽しさを少しのべてくれた。放浪の歌人山頭火などをテーマにした競作は、とても面白かった。石の蔵ぎゃらりーはやしでは、新作を発表した。私が注目したのが、映画「2001年宇宙の旅」の冒頭に登場する「モノリス」に触発された作品。直方体の黒い物体。その周囲に集まるペンギンの群れ。地球が抱える環境問題などを示唆する、なかなかスケールの大きい作品だった。

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  レクチャーは、時間が足りなくなる位、み蔵節が躍動していた。人間味あふれる人柄が作品にいい味を注いでいるとも感じた。今回は、特別に新作2体を会場に運んでくれてみせてくれた。世界遺産に指定された富士山を、み蔵風にアレンジしたものだった。みんな温かい心づかいに感謝していた。最後にひとこと。現在、心が沈みこむ出来事が続いているが、カラッとしたユーモアとピリリとした批評性を込めた作品で、私達をさらに元気にしてほしいものだ。

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(文責・柴橋伴夫)

 


 

「ミツバチとまちづくり」 

SAPPORO ART LABO 2013 サッポロアート・ラボ 第36

「ミツバチとまちづくり」          -開催日2013725日(木)-

■講師

□酒井 秀治(まちづくりプランナー)

1975年札幌生まれ。2007年夏より(株)ノーザンクロスにて札幌都心部の再開発や広場づくり、公共施設のリノベーションなどを企画コーディネート。まちなかの再生・賑わいづくりに取り組む。2010年、ミツバチの目線で都市部の自然環境を見つめ直す「サッポロ・ミツバチ・プロジェクト」を設立し、事務局長を務める。季刊誌・北海道マガジンKAIで「さっぽろスケッチ散歩」を連載中。一級建築士。

 

■会場 ト・オン・カフェ  札幌市中央区南9条西3丁目2-1マジソンハイツ1F

■受講者  名

 


 

ミツバチを育てることは、自然(緑)のことを考えること

 「サラ」メンバーの酒井秀治にレクチャーをお願いした。酒井は、長く民間の「総合的まちづくり」を主体とした会社に勤務して、都市計画に関するコンサルタントなどの仕事をしてきた。現在は、札幌のノーザンクロス(株)に勤務して、市民と共に様々な街づくりの取り組みをしている。酒井は、「現在、行政だと解決できないことがたくさんある。いま大切なことは、地域の課題を背負いながら、地域のさまざまな資源(人的、物質的)を活かして、街づくりをおこなうこと」だという。

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 本題にはいる前に、これまでの取り組み(調査など)を紹介してくれた。街灯やサッポロビールの建物の見え方など、足元にある景観への関心づくり。街の中に緑が多いかがどうかの意識調査(それを「緑の密度調査」という)。実は、札幌市民は、「他の政令都市と比較して、緑被度が高い」と感覚的に考えているという。残念ながら、実際のデータでは、その反対に他都市より緑被率は低いという。こうしたズレの起因性を探り、あるべき姿を探っていくことが求められているという。

さらに酒井は、福祉との関わりを通じての、街づくりで実績をあげている。具体的には、障害者の方々の参画による<元気カフェ>のとりくみ。<元気カフェ>は、これまで札幌市役所ロビー、中央図書館でオープンし、人気を集めている。中央図書館では、さらにデジタル「本の森」プロジェクトも試行している。これは、お坊さんや、建築家などの手による絵本づくりという。つまり絵本作家ではない、他ジャンルの方々に個性的な絵本を作ってもらうというもの。

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さて今回の中心的テーマである「ミツバチとまちづくり」について、紹介してくれた。酒井は、2010年に札幌中心部での市民参加型都市養蜂ロジェクトとしてサッポロ・ミツバチ・プロジェクト実行委員会を立ち上げた。翌年には、NPO法人化を行い、特定非営利活動法人「サッポロ・ミツバチ・プロジェクト」(通称「さっぱち」)となった。現在は、「さっぱち」の事務局長をしている。

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  「さっぱち」を取材したテレビ番組をダイジェクトでみせてくれた。そこに映し出されたのは、師たる元・養蜂家の城島常雄(佐賀出身)さんに、熱心に養蜂のイロハを教えてもらっている弟子たる酒井の姿だった。全てゼロからの出発だった。先進的な東京・銀座の取り組みも実見した。いかに屋上庭園づくりをするか、ミツバチが飛ぶ空の道の調査、蜜の採取をどうするか、さらに商品化と販売の方法づくりなどクリヤーすべき多くの課題があったという。私も知らないことが多くあった。ミツバチの行動範囲は半径3キロメートル程度と言う。

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さて基本コンセプトは、単に蜂蜜を作ることでなく、「ミツバチの目線で都市部の自然環境」を見直すことという。つまりミツバチを通じて、市民とともに、この街の自然を再考し、もっと豊かな空間を目指すことという。そこで肝要なことは、「人が係る場づくりや仕組み」をデザインし、「地域の新たな創造的価値」を作りだすこという。私は、このレクチャーを聞いていて、酒井の淡々とした語り口の背後に、強い意志を感受した。意志を支えているのは、ミツバチを素材にして、「市民同士がいい関係を築き、景観や街のデザインを考える場づくりを作りだしたい」という熱い情熱であろう。

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 最後に札幌で作られた蜂蜜をみんなでいだだいた。花の素材により味がちがった。その美味しさに感動しながら、夢にあふれたこのプロジェクトが環境教育や食育教育、さらには、スィートづくりなどと連携し、大きく広がっていくことを、心より願った。

(文責・柴橋伴夫)

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