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2012年12月

2012年12月29日 (土)

「画家ニコラ・ド・スタールの魂にふれた旅」

「画家ニコラ・ド・スタールの魂にふれた旅」 

-開催日 20121028日(金)-

講師

片桐 三晴(画家)

北海道生まれ。武蔵野美術大学造形学部油絵学科卒業。北海道大学文学部文学研究科研究生修了。北海道芸術学会員。1991年から2年毎に、海外の風物をテーマに独自の色と形の油彩作品を発表。2000年ニューヨークでの個展後、銀行カレンダー、大学案内パンフ表紙の制作を始める。北海道YMCA造形絵画講師。

会場 ト・オン・カフェ  札幌市中央区南9条西3丁目2-1マジソンハイツ1F

■受講者25

 

新しいド・スタールの解釈を提示

 

 第29回例会は、画家片桐三晴に「画家ニコラ・ド・スタールの魂にふれた旅」と題してレクチャーをお願いした。話す内容を原稿に書いて、準備するなど用意万端。話の骨格が明確で、とても充実したものだった。初めに自己紹介をしてくれた。現在、札幌YMCAで子供に絵を教え、個展(札幌や東京)を開催し、また絵の題材をもとめて、数年に1回の割りで、海外へ出かけている。

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さてレクチャーは、2部構成となっていた。第1部は、『ニコラ・ド・スタール』を出版した動機とこの画家の生涯。第2部は、2008年のド・スタールの魂に触れる旅について。

 

この本を書くために、まず文献・資料を収集しそれを読解し、さらにド・スタールの足跡を追って取材も重ねている。また著作権に関する煩雑な手続きも自分で行なった。

 

 とても興味深かったのが、本を書く動機だった。単に画家として、画家ニコラ・ド・スタールの作品に関心を抱いただけでなく、むしろその人間の存在、つまり生と死を深いところで捉えたいという意思があったということだ。こんな言い方をしていた。「私は、デンマークの思想家キルケゴールと画家ド・スタールのいきざまや死に類似性を感じていた」。私もこの本を読んで感動したのは、通りいっぺんの「評伝」や「論考」で終わらない、芸術の本質に迫る深い省察にみちた言説(視座)が息づいているからだ。

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いままで、日本で書かれたド・スタールに関する論は、ロシア貴族の出自に触れながら、「故国喪失者」とか、「時代に翻弄された画家」「悲劇的な自死の画家」という「枠」に留まっていた。その「枠」を破り、新しいド・スタール解釈を築いた。ここでド・スタールの人生の足跡を紹介していきたいところではあるが、紙幅の関係で、それを省いて、片桐三晴が一番書きたかったこととは何か、その論の深部とは何かを語っておきたい。

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 実は、本の副題に「調和を求めつづけた画家の軌跡」とある。この「調和」が、キーワードとなっている。レクチャーの中で、「(ド・スタールは)、抽象と具象の二項対立をのりこえて、絵画そのものを作り出そうとしていた」と語っていた。つまりド・スタールの絵画は、抽象と具象の垣根を取っ払い、絵画空間が全てを包み、全てを開示する最高のものであると…。それが「調和」の内実である。この視点はとても斬新である。

 さらにもう1つのことを触れておきたい。NYでの個展が成功し、画商ローゼンバーグから「もっと作品を制作せよ」と強いられた時、ド・スタールは、「私を工場と思わないでください」と悲痛な声をあげたという。亡くなるまでの、後半の10年間は、そんなもがきと葛藤の連続だった。過度の制作による疲労と睡眠不足による痛々しい日々。もがきと葛藤の帰結が、自死となるのであるが、その解釈が独創的である。自死を創造性との関係に着眼し、こういう言い方をしている。「スタールにとって自死という選択は、人生を美しく調和的に終えるための最後の労働だった」。このように、自死を悲劇性一辺倒でみるのではなく、それを選ぶことにおいて、その人間の創造的価値が含まれているという。「調和的に終える」ための「最後の労働」であると。無論、他から異論も出るかもしれない。それはそれとしても、私は、いままでの悲劇性のベールに包まれていたものが取り払われ、透明な光のようなものに照射され、ド・スタールの無垢な精神に触れたように感じた。   

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片桐三晴もレクチャーの中で言及していたが、自死の画家は、こんなにもいる。ゴーギャン。ムンク、パスキン。ゴーキー、キルヒナー、マーク・ロスコ。これは個人的な感慨であるが、ぜひともニコラ・ド・スタールに続いて、「病」と「創造性」、「自死」と「芸術」の繋がりに軸をおいて、片桐らしい独自な視点を持ち込みながら、新しい批評の地平を築いてほしいと願っている。

(文責・柴橋伴夫)

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