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2011年10月10日 (月)

「川上りえによる川上りえ」

「川上りえによる川上りえ」          -開催日 2011826日(金)-

講師

川上 りえ(彫刻家)

千葉県出身。東京藝術大学大学院修了。1990年より北海道に在住。個展、グループ展を通じて金属彫刻、インスタレーション、インタラクティブ・ワークス、サイトスペシフィック・アートを制作発表。02年〜08年にかけて、アメリカや韓国でのアーティスト・イン・レジデンス・プログラムに参加、展覧会出品。現在は石狩のスタジオにて、作品を制作し、札幌を中心に活動。作品と対峙することで得る感覚が深層意識に語りかける作品を生み出したいと考える。

■会場 ト・オン・カフェ  

■受講者40

凛とした個性を感じたレクチャー

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冒頭の映像が刺激的だった。幼い頃の川上りえの写真だった。最初の話は、生まれた千葉時代のこと。美術家川上りえになる前の素顔を知ることができた。このレクチャーを聴きながら、アートの発火点となるものは、人により差異はあると思うが、川上にとっては、小さい時から手を動かし、また絵を描いていたことが大きな原動力となっていたようだ。高校生になって、もどうしてもアートを勉強したいと、浪人しながら多摩美術大学への合格を勝ち取った。そこで真鍮やアルミニュムなどの素材を使う金属造形と出会った。

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「当時はダリが大好きだった。」という。これは意外なことだった。「ダリの世界観や、絵の中にある別次元の風景に関心を抱いた」という。これまた意外だったのが、大学時代は、バイクを乗り回していたという。風を切って疾走する姿。ぜひともその写真も見たかった。その後、東京藝大の大学院へ進み、鍛金科に籍を置いた。錆の力やたたいて変化する形に興味を抱いた。ハードな作業だったが、「自己表現の言語」となると確信した。当時の作品は、パーツを繋ぎつつ、「呼吸する形」や「プリミティブなもの」、さらに「ほったりしたもの」を感じさせるものに挑んだ。

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川上は、大学院を卒業後、北海道にきた。現在は、石狩市に在住する。大学などで学生に教えながら、多くの展覧会にも参加している。今回はあまり紹介していなかったが、札幌市豊明高等養護学校 (札幌)や石狩市総合保険福祉センター「リンクル」(石狩)など、多くのコミッション・ワークを制作している。新しい造形、自分らしい空間探求の熱を燃やして、積極的にアートの武者修行をした。海外体験も重ねた。それは中学生の時に、父の仕事の関係により、アメリカで生活をしたことも影響しているようだ。現地の学校に通学し、「言葉の壁」を感じながら、会話することの難しさを実感したという。こうした困難な体験も、あとで大きな力となったようだ。というのも今度は、アート作品が言語の壁を越えて、会話する貴重な手段となることを学んだからだ。これまで川上は、数度にわたって文化庁への申請やフリーマン基金(アメリカ)などを有効に使って、アメリカ(ヴァーモントスタジオ・センターやNY・ロケーションONE)などで制作をした。多国籍の人達と出会い、作品を通じて、交流ゾーンが拡大した。今回のレクチャーでは、その生活や制作システムなどが重点的に映像で紹介してくれた。ここで私が強く関心を抱いたのが、アメリカでは、かなり著名な美術家なども、アート・イン・レジデンスなどの制度を活用し、制作していること、さらにそこで制作しているメンバー達の作品批評をしてくれるという事実だった。上下関係のない自由なその雰囲気が、とてもいいと感じた。もう1つ感じたことは、川上は異国での作品制作により自己内省を深め、さらに自らの自己同一性とは何かを突きつけられるとてもいい機会となったのではないかと思ったことだ。それは私なりの言葉でいえば、アートにおける普遍性と個別性の関係をじっくりと突き詰めることになったはずだ。さらに海外体験を重ねる中で、いつしか無意識のうちに、「日本人としての色や形」とは何かを意識するようになったはずだ。

さて川上りえの制作とはどんなものであろうか。鉄などのハードな素材を扱いながら、ガス溶接、曲げ、磨きなどという力作業が中心となる。そんな厳しい作業の中でも、人や素材との出会い、さらに作品展示する空間などを大切にしながら、常に自分らしい造形に挑んでいる。その背筋をピンと伸ばしていく生き方、しなやかで凛としている。そんな作品づくりに感銘を受けた参加者から、こんなコメントが寄せられていた。「しっかりと、自分のことをみつめている人だ。」「女性としてもとても、元気をもらった。」

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最後に、少し個人的な感慨を提示しておきたい。これまでもしなやかな線や形で、大地を基底にしながら、自立する彫刻や人形(ひとかた)や、2010年の茶廊法邑での個展「イロジカル・ムーブメント」では、生命のエネルギーに繋がる螺旋形を表象化した。さらに人間の意識をこえた大きな時間の流れや、「呼吸する空間」を構築してきた。近年は、特に双方向のアートを志向しているように思える。

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すでに2004年には、ヴァーモントスタジオ・センター内のレッドミルギャラリーで、面白い試行した。隣の部屋(ワインとデザートが用意されている)にいくためには、作品を潜り、触らないと辿り着けないという趣向にした。そのため他者により「変形」「消失」していく作品となった。また映像でも紹介していたが、2010年に札幌彫刻美術館で開催された「Plus1 This place」では、一室に細い針金をはりめぐらして、海のような空間を開示していた。鑑賞者が作品の中に、身体で感応する空間を仕組んでいた。

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これからも手の痕跡を生々しくみせながら、感覚を刺激させる生命的な線と空間をみせてほしい。それが視る者の「隠れた感覚」を蘇生させる。そんな新鮮な空間造形をさらに開示してくれることを願っている。

(文責・柴橋)

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