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2011年8月 2日 (火)

第15回「絵画からの発展的インスタレーションの現況」

SAPPORO ART LABO 2011 サッポロアート・ラボ 第15回「絵画からの発展的インスタレーションの現況」-開催日 2011年7月17日(日)- ■ 講師 ★ 澁谷俊彦(美術家)1960年北海道生まれ。札幌、東京、名古屋、京都、大阪、ニューヨーク他、国内外で個展開催。グループ展多数。06年~絵画の境界線をめぐるインスタレーションへシフト。09年第1回茶室DEアート開催。11年2月スノースケープモエレ6に参加。雪上インスタレーションで野外へフィールドを拡張。同年12月からは札幌芸術の森美術館・中庭前庭で雪上インスタレーションが企画されている。北海道芸術学会会員。 ■会場 茶室寿光庵/木乃実茶屋(紅桜公園)  札幌市南区澄川4条13丁目389-6紅桜公園内  ■ 受講者46 名

-茶室でアート三昧-

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「サラ」の例会を、初めて別会場で開催した。交通の便のこともあり、少々不安な面もあったが、定員を大きく上回る盛況をみせた。今回のレクチャーは、サラ・メンバーの美術家澁谷俊彦。個展会場は紅桜公園内の茶室寿光庵、そしてレクチャーは、隣接した木乃実茶屋で行われた。最初に寿光庵で作品を鑑賞してもらい、その後に木乃実茶屋で、今回のタイトル「絵画からの発展的インスタレーションの現況」に沿って講話がなされた。なにより会場の風情がよかった。多くの人が、「札幌にこんな和の空間があったとは」と、空間の個性に驚いていた。開拓神社や巨石を配した広大な庭空間。それは実に北海道的なスケールをみせてくれる。聞くところによると、この庭全体は、金沢の兼六園を模しているという。晴天とはならなかったが、小雨による適度な湿り気が、庭の緑となじみ、しっとりとした落ち着きを感受させてくれた。

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今回澁谷は、別冊の資料を用意してくれた。さらにモノタイプの絵画や、手に取って鑑賞する半球体オブジェなどを用意してくれた。実際に手にして見ることもできて、これも作品世界を理解する上でとても有効となった。

 さて前半のレクチャーは、「インスタレーション移行前の平面作品(モノタイプ)の紹介」と「インスタレーションへの移行」について。講話を聞いていて、改めて気づかれたことがある。それはインスタレーション移行前後に、「絵画の場合」という運動体を組織し、展覧会と議論(理論や討論)を数年にわたり行っていたことが、その後の大きな飛躍台となっていたようだ。とかく美術家は、制作オンリーで、相互に理論や討論を戦わせることは少ないものだ。澁谷は、この運動体を通じて「現代絵画とは何か」「絵画の空間や境界とは何か」を問いつつ、制作に反映させてきた。そこから生まれたのが、柱状オブジェの導入であり、ラバーシートを支持体にして増殖する壁面構成だった。「森のイメージ」を大切にしながら、キャンバス空間の天地左右から開放を目指した。そして見る人の、作品の焦点距離を自在にした。こうして水滴や露をイメージさせる「森の雫」を造形した。こうした絵画の境界を越えていく実験的な志向から誕生したもの、澁谷は決して難解にならないように工夫した。作品空間は、親密かつ静謐な森の空間に包まれたような感覚を味あわせてくれた。

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その後、休憩をとり木乃実茶屋が作ってくれたドリンク(抹茶やシソを素材にした)を飲んでもらった。後半は、「反射光を用いた新シリーズの展開」「野外への拡張」「更なるサイトスペシフィック」に論を進めてくれた。「反射光を用いた作品」は、「北海道立体表現展」(札幌芸術の森美術館)や個展などで開示した。新しく澁谷は、多くの美術家にとって普遍のテーマである「光」を主題にした。トンネル状・箱型・波状のフォルムを持ち込みながら、支持体の下に白砂を配置することで、色と影の微妙な関係づくりに留意した。私には、それらの作品と出会う中で、どこか日本の庭空間(枯山水の空間美)に通じるものを感じていたし、ランドスケープ(景観)の縮図であるとも感じていた。かくして澁谷は、かなり独創的な手法を編み出したわけである。最近では、光の反射力を活用して、雪の中でのインスタレーションにチャレンジしている。札幌・モエレ沼公園で開催した「SNOW SCAPE MOERE6」(2011年2月)に参加した。厳しい大自然のなかで、寸時に変幻する光のスペクトル。それを「SNOW PALLET」と名づけた。澁谷は、鉄製の円盤状の形体を用いた。天板裏面に蛍光塗料を塗った。それを雪の中に置くことで、反射光により雪の空間全体が色に染まっていく。「室内空間で用いるLED電球の光とは違い、太陽光が一番ナチュラルで、美しい!」という。実際にやってみて、「光源は少なくてもいい、日没前後の方がとても、柔らかい微妙な変化を味わうことができる」という。

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レクチャーの後、感想や質問をうけたが、いつもより質問が多かった。澁谷が現在追求している、「絵画からの発展的インスタレーション」という、作品づくり(創造の原点)に関わるものが多かった。それだけ澁谷の先端的な仕事に、多くの人が興味を抱き、関心をもっていることの、証左であろう。

最後に個人的な感慨を述べさせてもらえば、私は、現在進めている空間を素材にした作品づくりには、澁谷の体内に組み込まれている「和のティスト」や、空間志向が強いバネとなっているのではないかと思っている。いうまでもなく枯山水の庭には、ミニマル性とマクロ性が共存しているように、澁谷の作品空間には、「見立て」志向を生かしつつ、良質なミニマル性とマクロ性が内在している。だから見ていて、とても開放感を感じることができる。もう1つは、澁谷の無邪気な童心、ユーモアや遊び心も隠れていることだ。それが観念的に走ることに適度なブレーキをかけてくれる。作品の中にそっと、蛙やコンペイトウなどを隠すのはまさにそれを示している。

これから澁谷が、北の大自然を対話しながら、どんな風に絵画性(色の作用・フォルムの力・空間の質など)を基点におきながら空間触知を目指して、私たちのどんな出会いをみせてくれるか、楽しみにしたい。(文責・柴橋伴夫)

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