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2010年9月

2010年9月22日 (水)

「北の形象 デザインとアートな試行」

開催日 2010827日(金)-

講師      

玉本 猛(グラフィック・デザイナー)

1943年札幌市生まれ。グラフィックデザイナー(クリエィティブ・ディレクター)1973年玉本アートクリエーションオフィス設立、現在に至る。企業・会社・美術館・専門店などのCISVISBISの企画・制作を核にアーティストのブックデザイン、エディトリアルなどのジャンルを越えてデザイン活動に携わる。現在、「北の形象(色、光、形の意匠)」を制作中。札幌彫刻美術館専門委員。

「デザインの可能性や未来性を語ってくれた」

 「サラ」の8月のレクチャーは、「サラ」副代表の玉本猛。タイトルは、〈「北の形象」デザインとアートな試行〉。時間をかなりオーバーする位にデザインにかける想いを熱をこめて語ってくれた。はじめに自己紹介を兼ねて作品を、映像を通してみせてくれた。

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まず誕生した1943年という時代や、生育した頃の札幌の原風景などに触れてくれた。私も長く玉本さんと交友をさせていただいているが、あまり「人生の歩み」を聞くことはなかった、その意味でも貴重な話を聞けたことは、とてもよかった。札幌の豊平川沿いの下町育ちという。戦後になり、真駒内にアメリカ軍が駐留していた。ガムやチョコレートなども珍しかったが、将校達が吸っていた煙草の「ラッキーストライクのデザイン」がとても新鮮に感じたという。後に玉本猛は、日本専売公社の仕事を行うことになるが、まさに彼のデザインの原点は、この辺にあったようだ。また丸善の洋書コーナーで、外国のデザインなどに関する本をよく

見ていたという。札幌東高校での優れた師との出会いでもおおきかった。画家の伊藤正、書家の加納守拙らがいた。玉本猛は、当時はスーパーリアルな絵や線を大切にして描いていたが、伊藤正は、「君はタブローより、デザイナーに向いているよ」と進むべき道を示してくれた。そのアドバイスは結果として、彼のデザイナーの道へと繋がっていく。

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 業界では大手の電通に勤務した。プロの技やプロ精神を叩き込まれた。日々睡眠を削りながら、仕事をこなし、またデザイン感覚を磨いた。夜は、ひたすら手を動かし、レタリングやドローイングをして、自分の線や形を見つけようとした。電通では8年間半勤務し、その後30歳で独立したが、前後ほぼ10年間は、東京や札幌オリンピック、大阪万博など、国際的イベントなどもあり、まさにデザイン全盛期だった。

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レクチャーの後半の自作のデザインに関する仕事についての話を聞きながら、私は、こんな感慨を抱いた。玉本猛は、そうしたデザイン文化が隆盛する中で、足元の北の地を大切にしながら、そこを舞台にして、自分の美的な感覚をとぎ澄ましながら、デザインの原野を開拓した第1人者であると感じた。具体的に幾つかの制作逸話をしてくれた。1つは、道立近代美術館で開催されたスウェーデンガラスの70年の歩みを紹介した展覧会のポスターや図録のデザインについて。1つは、いまや全国ブランドとなっているすし善(寿司屋)のトータルデザインについて、オーナーとの出会いを含めて語ってくれた。玉本猛は、すし善のコンセプトは、「私の鮨は、あなたのために握ります」という言葉に収斂するという。店の空間デザインやパッケージデザインもみんなこの言葉に込められているという。これがもてなしの心、鮨の真髄、和の心の本源のようだ。

こうするとデザインとは、単に売るためのデザイン作業にとどまらずに、ショップ・アイデンティティを明確にすることで、人の心さえも包んでいくこと、つまりトータル・パッケージすることに繋がっているようだ。デザインの面白さ、楽しみとは、まさにこんな所にあるようだ。また画家から古備前焼に転進した安部安人の出会いについても語ってくれた。残りの時間を使って、さまざまな視覚的な錯視について、丁寧に説明してくれた。「空間認識としての多義図形」「色空間」に分類しながら、いかに錯視が多様化し、また実際の生活に応用されているか、みせてくれた。これは参加者にとってもいい学びとなったようだ。

最後に最近の作品(CGデザイン)を映像でみせてくれた。前半部は、「平面図像」から「交差図像」へ、次に現在のライフワークとなっている「北の形象」を、「祈り」から「憧憬」まで、その8バージョンをみせてくれた。

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レクチャーの最後に、玉本猛は、「デザインの本質」をこう語ってくれた。「デザインという言葉には、本源的には、創造的行為と深く係わる〈サイン〉(記号)ということを含んでいる。それは〈神が行う行為〉に近いものです。」まさにデザインとは、「表層のイメージ」にとどまることなく、常に「生きること」つまり「人間の存在や意識」に絡んでくる創造的行為のようです。また玉本猛は、「デザインは、インディアンなどが烽火をあげたように、そこに伝達行為や文化的行為を含んでいる。そんな人と人をつなぐ伝達媒体でもあり、さらにいえば社会的仕組みを革新的に作りだすことでもある。」と述べていたのが、印象ぶかかった。私たちはデザインを、「モノの商品化」に留めることなく、また矮小化することなく、「真正のデザイン」とは何かをもう少し深く考えるべきではないかと、このレクチャーを聞きながら、強く感じた。全体としてデザインの面白さ、可能性(未来性)を考えさせてくれた、そんないいレクチャーだった。(柴橋伴夫)

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